何処だっていい。
とにかく。

全て、忘れられる場所に連れてって。





イ イ 






飲みすぎた頭で、考える。

このまま壊れてしまったら、どれだけ楽だろう。


実際にそんな事は出来ないとわかっているし、壊れたままでいられない事だって重々承知している。壊れたものは修復されるのだ、ほとんどの場合。修復できなかったら廃棄処分、といったところか。人間だって道具と変わらない。壊れた人間は、社会という場所には必要ない存在になる。
そんな存在になりたい、と、ふっと思った。


何もかもが嫌になる。自分を取り巻いている環境だとか、プレッシャーだとか、そんなものを振り払いたくなる。壊れてしまえばそんなもの感じなくても済む。
ふっと頭を過ぎったのは、大切な仲間達。自分が壊れたら、あの人達はどうするだろう。怒ってくれるだろうか。自分を直そうとしてくれるのだろうか。手を差し伸べてくれるのだろうか。それは、わからない。
とにかく、壊れたい。そう思った。もう何もかもがどうでもいい。


ほんの少しの罪悪感を胸に抱いて、崩壊への道を走った。







「ん…」

ぼんやりと、目を開ける。

視界に入ったのは、見慣れない天井。何度か瞬きをして焦点を合わせる。起き上がろうとすると、隣にいた誰かが振り向いた。

「あぁ、目が覚めたか。もう大丈夫か?」
「…あ、はい…オレ…」
「昨日の事、覚えてる?」

年配の男性。身に纏っている服が警官の服だとわかるまでに、少しの時間を要して。あぁ、警察署にいるのか―――そう自覚するまでに、更に長い時間がかかった。

ふと、頭の中がクリアになる。

昨日。何をした?自分は、何を選んだ?
壊れよう、そう思った。それだけは覚えている。その後だ。その後、自分は何をした?警察にいる。という事は、何かをした。思い出せない。思いだしたくない。そして何よりも。

今、自分は壊れていない。

どう考えたって正常だ。思考回路はちゃんと動いているし、こうやってちゃんと物事を考え、思いだそうとする事も容易に出来る。昨日の記憶がないのは、一部がごっそりと抜け落ちてしまっているのは、その瞬間だけ壊れていたということか。
じゃあ何で今は正常なのだろう。

「…おい、大丈夫?」

考え込んでしまった自分に、警官は心配そうな表情を向ける。大丈夫です、と繰り返して、中途半端に起こしていた身体をちゃんと座らせた。

「…オレ、昨日…何して…」
「随分酔ってたみたいだな。何という程の事でもないんだが、公園でずっと一人で大声で泣いてたんだ」
「…泣いてた?」
「声かけても全く反応しないしね、心配したよ。泣き止んだと思ったら眠っただけだったし。置いておくのも心配だったから警察署まで連れてきた、そういう事だ。…何かあったのか?」
「…わかりません」
「わからない?」
「…ただ…壊れたいって…そう、思ったんで」

人間というのは何処まで頑強な生き物なのか。泣き叫んでしまえば、壊れる事すら辞めて、元通りに生きていくというのか。何て強いんだろう。弱いから、壊れてしまおうと思ったのに。その矛盾に、頭が痛くなる。弱いから耐え切れなくなったのに、泣き叫んだらスッキリしただなんて、そんな事。
もっと早く気がついていればよかったんだろうか。そうすれば、もっと楽に生きていけたのだろうか。恐らくはそうなのだろう。その方法に全く気付けずに、心の中に何やらたくさん溜め込んでしまって。そのせいで壊れたい、なんて思ってしまったのか。泣き叫んで気持ちを吐き出せば済む事を、大事にしてしまったのは自分自身なのか。

自分が馬鹿らしくて、笑えた。







警官と少し話をして、礼を行って、警察署の外に出た。
ガンガンと容赦なく降り注ぐ日差しは、昨日までと何ら変わりない。目を細めて、手で日光を遮りながら空を見上げる。

何処までも澄んだ蒼空。

綺麗だと、思った。よく考えれば、近頃満足に空なんて見上げた事などなかったような気がする。そこにあるものを綺麗だ、なんて思う余裕はまったくなかった。
晴れ晴れとした想いが、身体を満たしていく。


大丈夫。


理由なんてなく、唐突にそう思った。大丈夫。自分は大丈夫なのだと。

早く帰ろう。自分を待っている人達がいる。よく考えたら、昨日は無断外泊だ。心配しているだろう。怒られるだろうか。怒られても構わない。殴られたって別に構わない。

言葉には出来ない何か大切なものを、取り戻せたような気がするから。



































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