--> Night when a star comes down.

漆黒の夜空に瞬く星は、宝石と形容するに相応しいものなのだろうか。

澱んだ都会の空気の中でも、空の中で煌々と輝いていて。

その強さに、何処か惹かれる。

その美しさに見惚れながら、二人は声もなく歩き続けていた。




Night when a Star comes Down




何処までも静かで、いつもの都会の喧騒とはまったく違う世界。異世界に来たのではないか―――なんてぼんやりバカげた事を、少女は考える。

此処ではない世界。
青年と二人だけの、世界。

実際問題そんな世界は恐らくは退屈なだけの鳥籠で。たくさんの人がいて、たくさんの言葉を聴き、たくさんの経験をするから世界というものは存在意義がある。たった二人では、どうする事も出来はしない。生き抜く事すら困難になる―――二人だけの世界、というのは、どうも甘美な響きを持っているけれども。
それでも、大勢の人がいるこの世界の中で少しの時間を二人でいるのは、悪くない。少女と青年と、二人。時折その他大勢の人も交えて、自分達の世界というものを作るのは。

「…凛」

考えを遮ったのは、青年が少女を呼ぶ声。青年が立ち止まった事に気付かずに歩き続けていた為に、少女は青年を振り返る形になる。
青年は少女の顔を見ながら、優しく微笑んでいた。

「…何笑ってんの?」
「ん?凛ー、これ、やる。」

ぽい。

あまりにも無造作に投げられたソレは、仄かな電灯と星の光の中でくるくると宙を舞って。手を伸ばした少女の手の中に、綺麗に納まった。
手の中に納まったソレに、少女は視線を落とす。小さな小箱のようだった。戸惑いがちに青年に視線を向ければ、開けろ、と促されて。闇に慣れた目で小箱を見つめていると、それが指輪ケースである事が理解できて、少女はもう一度青年を見た。今度は、表情に驚愕を表して。

「…ヒロ?これ、もしかして…指輪?」
「んー。そう。」
「ありがとー」
「・・・・・・あのさぁ、凛?」
「んー?何?」


「結婚、しよっか。」


そう告げた青年の表情は、いつもと変わらないごく自然な優しくてやわらかい声音。それ故に、少女はしばらくその言葉の意味を理解できずにその場に固まっていた。ニッコリと笑って、もう一度青年は口を開いた。

「結婚、してください。」

すぐに答える事が、どうしても出来なかった。

まるで夢の中。
夢なら覚めないで、と願ってしまうのは、これが幸せすぎるから。

答える前に、少女は恐る恐る、手の中のケースを開けた。
そこにあったのは、小さな紅い石の光るシルバーリング。その赤い石は、彼女の誕生石だった。

迷いは、もうない。

少女はゆっくりとした動作でその指輪を手に取った。指輪が収まる先は、唯一つしかない。

左手の、薬指。

指輪を嵌めて、その手を翳してニッコリ笑って頷いた。手の先に、青年の嬉しそうな表情。直後には、青年が駆け寄ってきて―――少女の体は、あっという間に青年の腕の中に納まっていた。


「絶対、幸せにするから」
「…うん」
「二人で、暮らそ。」
「…うん、ありがと、ヒロ…」




漆黒の闇夜に光っていたのは幾千の星。
その中で、一際綺麗に輝くもの。
まるで空から落ちてきた星のように、少女の薬指の指輪は輝いていた。















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